その2


ジョニーと鼻眼鏡が出て行ってから
数分も間を空けず、店の戸が慌ただしく開けられた

「ママ!ママ!!!」

「今日は何だか慌ただしい日ねぇ・・・
どうしたの?そんなに息を切らして」

カウンターに置き去りにされたグラスに目をやり、
マユの中で疑惑が確信に変わる

「ママ・・・!!!あの人、来てたわよね!?」
「あの後姿!それに・・・このグラス・・・・・」

眉毛をハの字に上げ、口元は微笑んでいる。
ママが困ったときに見せる顔だ

ひとつため息をつき、マユを席へと導く。

「来てたわよ。」

同時に、ハーブティを差し出した

「ぃ・・・・・いらないわよ!こんなもの!!!」
ママの手を払いのける。
手から離れたカップは床で砕け散り、
暖かそうな湯気を立てている。

店中がラヴェンダーの香りで満たされた

「うわぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁーー!!!!!!」

全てが悲しくなり、マユは泣き崩れた

「かわいそうに。こんなになるまで
一人で悩んでいたのね・・・」
肩に触ると、骨の感触が直に来る。
全盛期にはそのグラマラスな体に
涎を垂らさない男はいなかったとゆうのに。






「ジョニー…ジョニー…」
泣きながらマユは何度も呟く。
多分相当探し廻ったのだろう…
額は汗に濡れ、瞼は真っ赤に腫れていた。
「ママ…あたしもうダメかもしれない…
こんなに辛い思いをするのなら…」
そう言って彼女は言葉を濁し店を出ていった。
彼女の話を聞き、送り出したママは
同情の気持ちともうひとつ心の中で
何かが溢れ出すのを抑えていた…

自分を追いかけてマユは店に行っただろう…
そんな考えが頭をよぎったが
今は目の前の男の話を聞くことでいっぱいいっぱいだ。
「じ…実は…ある人に頼まれたんです…
あなたが親しくしている“マユ”という人について…」

うつむき家路につこうとしていたマユは
ジョニーとある男が話しているのを目撃してしまう…





「ジョ、、、ジョ、、、ジョニー」
誰にも聞こえない位の小さな声で
マユはジョニーを呼んだ。
そのとたんマユは冷えきったアスファルトの上に
ストンとへたり込んでしまった。
ジョニーに会えた嬉さ、
安心感で自然に涙が溢れている。
ジョニーはそんなマユを見て、そっと微笑んだ。
「ああああの女わっ!!!」
鼻眼鏡が場の雰囲気を察しずに大声で叫んだ。
ジョニーはゆっくりマユに近づき、
マユの細く柔らかい髪にそっと触れ
何も告げずに挙動不審な鼻眼鏡を引きずりながら
マユに背を向けて歩き出した。
「あああぁアノ女わッ!!!!!」
鼻眼鏡はまたしつこく叫んだ。
ジョニーは人通りの無い路地裏の壁に
鼻眼鏡を投げつけて、
痺れる様な低い声で鼻眼鏡に言った。





「あいつには近づくな」
「い、いいのかジョニー!?
ぁぁぁ、あいつのしょ、正体を知っているんだろ!?」
「とにかくあんたの話は今度聞こう。
あんたは喋りすぎた。」
「ま、まってくれよジョニー!」

男の蒼白い手がジョニーの腕をつかんだ。

「こここ、このままじゃ危ないのは
、わわ、分かっているんだろ!?」
「俺が決めることだ。」

男の手を振り解きジョニーは
大通りへ歩いていった。

女は野良猫のように裏路地をさまよっていた。
雨かと思うほど体に触れる霧が濃かった。
指先は冷たい。
マユはこのまま冷え切った潤いの中に
消えてしまえば良いと思った。

なぜ人を愛したんだろう。



マユの目の前をボロ布をまとった
乞食の老婆が横切った。
老婆は猫の死骸と大きな紙袋をもち、
有刺鉄線のめぐる大きな鉄格子をすり抜けた。
マユはいつかジョニーに聞いたことを思い出した。
この裏路地には立ち入り禁止区域がある。
老婆は何かつぶやきながら
マユに向かって手招きをした。
行ってはいけない・・・分かっていたが、
少しだけと思い狭い鉄格子を抜けた。

カランカラン。。。

「ママ、あいつは帰ってきたか?」
「なにいってんの一緒だったんでしょう?
あのこは追いついたはずよ。」
ジョニーは煙草に火をつけ
深く、深く息を吸った。
もう一度肺に無理矢理押し込み
半分も吸わずに火を消した。