AM3:24。眠れない。間宮蓮児:マミヤレンジ 19歳

ホットミルクを作ろうと体を起こす。頭はますます冴えた。いつか雑貨屋で買ったマグカップに、賞味期限ぎりぎりの牛乳を注ぎレンジにかけた。温める間部屋に戻りパソコンの電源を入れた。真っ暗な部屋に画面が映えた。

新着メールが一件あります

メッセージを無視しweb上の自分の日記を見た。
今日したこと、今日したこと、今日したこと。
反芻したが記憶はなかった。昼間寝すぎた。今寝れないのも当たり前だ。しかたなくメールを見た。送り主を見て時が止まった気がした。
カップの中のミルクはレンジの中で冷えていた。

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やほ〜☆昨日は楽しかったね!!ホント誘ってくれてありがと(≧ω≦)
また行きたいなあ

昨日言ってたお店なんだけど、やっぱり閉店してたみたい。。。
二人で行きたかったのに残念だね(TεT)もっといいお店見つけたらまたメールするね♪♪

ではまた☆
             ナミ

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『ナミ』

その文字から目を離す事ができない。わかっている。“ナミ”ではない。
どこかの誰かが送り先を間違えただけだろう。

ただの間違いメールだ

そもそも俺は昨日ナミと言う名の女どころか、誰とも外出した記憶がない。
もし、万が一にでも、例えば俺がこのメールの送り主と遊びにいった後、交通事故にでも遭い、記憶障害になったとしても、“ナミ”ではない事は確かなのだ。

同じような疑問が浮かんでは消え、また浮かんでは消える。

どれくらいの間、画面とにらめっこをしていたのだろうか。ようやくレンジの中に置き去りにされた牛乳の存在を思い出した俺は、とにかく一服でもしようと立ち上がった。
冷めたホットミルクは俺の頭も程よくクールダウンしてくれる。

「そんなばかげた話があるもんか。ただの間違いメールだ。何を驚く必要がある。ナミとは3年も前に別れたじゃないか。」

誰に聞かせようとしているのか
大きな独り言を言った後、メールを削除すべく立ち上がった。

そう。もう二度と会う事はできないのだ。
3年前
ちょうどこんな夜だった

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―ずっと、暗い部屋の中にいた。狭く、何もない部屋。眼の前には、漆黒の闇―

居心地は悪くなかった。そこが自分にとって全てだと思っていた。
眼が慣れてきて気付いたことがひとつ、その部屋には扉があった。
隙間から差し込む光が眩しすぎて、ただ怖かった。

三年前、時計の針は二時を指した頃だったか。俺は暗黒街の路地裏に座り込んでいた。いや、倒れていたと言ったほうが正しいかもしれない。身体中あちこちが痛い。右眼が見えないのは恐らく瞼が腫れているからだ。鼻と口元を拭うと、袖口に血が付いていた。
寒さで体の震えが止まらない。

このまま眠ってしまおうかと思ったそのとき、耳に入ってきた優しい声―

「あの、風邪ひいちゃいますよ。」

顔をあげると、この街にはまるで不似合いな、澄んだ瞳が俺を覗き込んでいた。

―扉が静かに開き始めた―


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目がさめるとそこは真っ白だった。

「おはよう、よく寝たわね。ここはフィズモールよ。日本にはいつ帰るの?
まあこの傷の具合じゃ早々帰れないでしょうけど。」

女は赤いシャツを脱ぎ汗を拭いた。窓の外には海が見える。

「寡黙なのね。ナミは今買い物よ。そんなつんけんしないでよ。あたしはジーナ。ナミはあなたを助けてくれた子よ。帰ってきたらお礼でも言っておくのね。」

女はベッドに腰掛けると俺の太ももを触った。体の傷が疼く。女は注射器を取り出し、焼けた砂糖の色をした小瓶の中の液体を吸い取った。
我慢してね、そう言って腿にさす。俺は軽く痙攣したが体に異常はない。
白い壁、白い窓。風は青く見える。何もかもが白い部屋。初めてだ。

「家財は自由に使ってくれて良いわ。
そこのコンピューターはインターネットつないでるし、エアコンのスイッチはこれよ。冷蔵庫の中にはおやつ入ってるから動けるなら食べてちょうだい。」

からかうようにして女は風呂場へと向かった。

「おはよう!起きてたんですね!」

扉を背中で開けながら少女が入ってきた。
きっとナミだ。大きな紙袋を二つ抱えて
真っ青なスカートを揺らしながらふらふらとこちらへ向かってくる。

「ナミ、心配かけたね。」

大きく潤んだ目をくりくりとさせながら不思議そうにこっちを見る。

「ジーナに名前教えてもらったよ。助けてくれてありがとう」

ナミは微笑み、

「いいえ、お体は大丈夫ですか?リンゴ買ってきました。食べますか?
あたし剥きますよ。オレンジのほうが
やわらかくて食べやすいですか?オレンジにしましょうか」

ナミは1聞くと100返ってくるような明るい娘だ。
あの日のことも、何も聞かない。俺もナミの事はそう知らない。

「俺は…蓮児。間宮蓮児だ。」

偽名を使おうか悩んだが隠すものは何もないと思った。
ナミはまたやさしく微笑み、皮を剥いたオレンジを口に運んでくれた。

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口の中も切っていたようですこしオレンジがしみた。
ナミの白いシャツにはうっすら汗が染みている。
風呂場からカタカタと音がしてバスタオル一枚のジーナが出てきた。
ジーナ!声をあげるナミに向けてジーナは口元に人差し指を立て、静かにと合図した。
「ごめんね、ジーナいつもああなの、人前なんだから少しは気にしてほしいのに。」
「べつにいいさ」
と声をかけた。
「ナミ、ちょっと席をはずしてもらえないかしら。」
イシルのところへ行くと言い残し、ちょっと驚いた様子でナミは外へ出て行った。
バスタオル姿のままゆっくりとベッドに腰をかけたジーナは俺のほうへ横たわる。
濡れた長い髪が冷やりと胸につく。首筋にジーナの唇が触れた。
「やめろ!」
ジーナを引き離した瞬間頬を生温く鋭い感覚が襲った。シーツが赤く染まる。
「バカね、あのままこの町を出ていれば良いものを。逃がさない」
ジーナが鈍く光る銃口を向けた。乾いた甲高い音が部屋に響く。

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「何をしているの!?」
騒ぎに驚いてナミが部屋に飛び込んできた

銃は素早く枕の下へ隠された

間を措いて、ジーナが動く
「やぁね。ちょっとイタズラしてみたくなっただけよ。かわいい坊や」
俺の頬にそっと触れて、ベッドから降りる。

『次は逃さない。』

目がそう言っていた

‘信じられない’とでも言いたいのだろう。大きな目をクルリと回して、ナミは去っていった
ジーナはシャワールームか・・・

俺としたことが。敵に囲われておきながら何一つ気づかずに寝こけていたなんて。

何もかも白いこの部屋が俺を幸せな錯覚に陥らせる

枕の下に潜んでいる鉛の塊を懐に忍ばせ、俺は部屋を出た

フィズモール
1度くらいは訪れたことがあるだろうか。
鮮やかなターコイズブルーの海に白い砂浜という、
まるで美しい絵画のような風景に煙草の煙を吹きかけた

**********************

AM11:30。俺の気持ちも落ち着き頭の中もようやく帰ってきた。
ナミは今何をしているだろうか。日本へ逃げるように帰ってきて、月日がたった。俺はこうして平穏な日々を送っている。あの組織はまだ俺の情報を狙っている。
外界を通じ俺に侵入する。




また戦いの日が始まるのだ。

物語部屋 第一弾
一時終了